黄体機能不全

 黄体は、排卵後、卵子を排出した後の卵胞が変化したもので、正常であれば、充分な量の黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌します。このホルモンは、子宮内膜の分泌腺の働きを活発にして、子宮内膜を厚く栄養豊富にし、また高温期の体温を維持する作用があります。

 黄体機能不全の場合は、黄体ホルモンの分泌不足や、黄体の早期退化がおこるため、不正出血や高温期の体温の不安定といった現象がおき、不妊や習慣性流産にもつながる可能性があります。黄体機能不全は、高温期中の血中プロゲステロン値が10ng/ml以下、内膜の厚さが9mm以下という基準のほか、基礎体温に関しては、高温期が12日未満、低温期と高温期の差が0.3℃以下、低温期から高温期への移行が3日以上かかる、高温期の体温が0.2℃以上変動する、などが指標となるようです。原因としては、黄体化刺激ホルモン(LH)の不足、卵胞刺激ホルモン(FSH)の不足、乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)の増加などがあげられています。

 黄体機能不全というと、高温期の症状のため、高温期にのみ関心がいきがちですが、黄体機能は、卵胞期からの連続した変化で、正常な黄体機能は、正常な卵胞発育・排卵に引き続いて形成されるものですから、卵胞期の重要さも考慮することが大切です。

 中医学では、質のよい卵胞や黄体をつくる力、黄体化する力が弱いと考え、根本的には「腎虚」や「血虚」があると考えます。また、冷えが強い場合は、「瘀血」や「痰湿」を伴ったり、ほてりが強い場合は、「陰虚」や「肝鬱」を伴ったりすると考えます。

腎陽虚が強いタイプ

 漢方の「腎陽」は、ホルモンの原動力のようなもので、視床下部ー脳下垂体ー卵巣系の一連のホルモンの流れを推し進めるものですが、「腎陽虚」の人はもともとここが弱く、さらに卵巣付近の血流不足の「血虚」をかねると、なかなかよい卵胞が育たず、周期も遅れがちになります。当然、よい黄体もできないため、黄体ホルモンの分泌が悪かったり、高温が持続しなかったりします。

 基礎体温は、全体的に低め、低温期が長く、高温への上昇がスムーズでない、高温期は短く途中や最後のほうで下がるなどの特徴があります。「痰湿」を伴うと、ホルモンの一連の機能がさらに邪魔されるので、さらに、周期が長くなったり、高温期がはっきりしなくなります。ほかに、生理痛や腰痛がある、冷え性、疲れやすいなどの症状もよくあります。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、排卵障害なども起きやすい。

 冷たいもののとりすぎや薄着による冷えや血行不良に要注意。 こってりしたものや辛いもの、生もの、冷たいものは控えてバランスのよい食事が大切。

 漢方では「補腎陽薬」「補血薬」などを中心に利用します。 特に、生理周期に応じて飲み分ける周期調節法が効果的です。

腎陰虚が強いタイプ

 漢方の腎は、視床下部ー脳下垂体ー卵巣系の一連のホルモンの流れを推し進める力ですが、「腎陰虚」の人は、清熱作用をもつ陰分の不足から熱が過剰になり、熱の力でこの流れが亢進し早くなってしまい、質のよい卵胞が育ちにくくなります。黄体もよい状態でなく、高温期も短くなる傾向にあります。

 基礎体温は、低温期も高温期も短めで周期がはやくなりがち、体温は全体的に高め傾向、「肝鬱」を伴うと、ギザギザ変動が激しくなることもあり排卵もわかりにくくなります。ほかに、ほてりやのぼせ寝汗などの熱感の症状がある、イライラや胸のハリが強い、生理前は寝つきが悪くなるなどの症状もよくあります。高プロラクチン、乳腺症、自律神経失調症、不眠なども起きやすい。

 ストレスや多忙が悪化条件、ストレス対策や時間のやりくりを工夫するのも大切です。 陰を消耗し神経を高ぶらせる辛いもの、こってりしたもの、コーヒーなどは控えめに。

 漢方では、「補腎陰薬」「疏肝薬」などを中心に利用します。